#12 会話の成立

内田樹さんという人がいます。
 
彼の言に、
 
「私にとって重要なのは、その人の奉じる社会理論ではなく、
その人の人間的資質である。
そもそも私は
「その人が奉じる社会理論とその人の人間的クオリティはあまり関係ない」
と思っている」(『ためらいの倫理学』角川文庫p.172)
 
というものがあります。

彼の、キリスト教徒の友人やフェミニストの友人を念頭に置いた言葉。

全くその通りだと思うし、こういう考えを支持したいと思っています。

それを追証する意味でも、
自分の言葉でこのことに関して
記述しておきたいと思います。
 
「追証」だから「追従」の気がしないでもないですが、
それは敬愛する内田樹さんの論を自分なりに解釈し、
自分の言葉に変換する作業だと思えば、
自分のオリジナリティの確保にもつながると思って取り組むだけ。
 
確かに、その人の信仰や価値観が自分とは違うのに、
なぜ会話が出来るのかは不思議だと思います。
その人が思考の前提としている世界観が自分とは違うのに。

それは、1人の人間の中に、
自分の信じる世界観、または自分の奉じる社会理論に忠実な部分と、
そうではない部分が共存しているからだ、
ということに他ならないと言えるのではないか。

これが今回のテーマです。

つまり、その人の信仰なり、矜持なり、奉じる社会理論なり、
それらをその人に通じる1つのチャンネルに過ぎないものと見なすことで、
自分がその人とは異なる世界観に依拠した思考をしていても、
対話が可能になるということだということ。
 
それを論証(?)する例を3点、
自分の経験から以下に示したいと思います。

*************************************

 ①キリスト教徒
 
彼らの依拠する世界観、つまり、
神という擬人化された超越的存在がこの世界を創り、
死者は地下にてモラトリアムを過ごし、
最後の審判の日によみがえり、
生者とともに神の前に引き出される。

そして、神の裁定を受け、
天国か地獄のいずれかに向かうことになる。
(キリスト教にもいろいろあるから、この限りではないけど。)
 
そのように世界は始まり、
そのように世界は終わるという世界観を彼らは持っている。
 
自分にはそのような世界観はない。
自分は、彼らの奉じる世界観を、
「誰か」の描いた1つの物語にすぎないと思っている。
世界を語る、数ある物語のうちの1つにすぎないと思っている。

しかし、かといって、
自分はそれに代わる物語を持っているわけでもない。
 
彼らと話すと、自分は彼らのタブーを口にし、
彼らを怒らせてしまうかもしれない。

また逆に、
「この世界観を知らない、信じられないなんて、なんて可哀相な人・・・」
といって、憐れまれるかもしれない。

このようなキリスト教の世界観を内部に持つ人達とも、
付き合うことは出来る。
 
道内出身のある友人は、
社会の話から下の話まで、
タブー無く語り合えた稀有な友人だし、
韓国の友人は、洗礼を受けているにもかかわらず、
自分自身がそんな世界観を信じていることにも無自覚で、
私が教えてあげることも少なくなかったり。
 
また、カンボジアの友人は、
仏教徒だった自分がいかにキリスト教に改宗して、
生きる上でいかにその教義に依存、依拠しているかということを、
熱心に日本語で訥々と語り聞かせてくれた。
もちろんそれ以外の、
おいしい料理を楽しむ話や、
美しい景色を愛でる話など、いろいろと話が出来た。
 
 ②社交ダンス界の選手兼インストラクター
 
この業界の人達には、
ある種のイデオロギーが貫徹している。
 
それは、
「日中は営業して、夜な朝なに練習し、
競技界の頂点に至ることを成功とし、そのために日々励む」
ということ。
 
プロスポーツの世界であるため、それは当然の教義。
 
自分も含め、彼らにとっては、
営業後から寝るまでの時間は、
自分自身の技術向上のために充てるべき、
自己研鑽の時間であり、
それ以外は何かのイベントの時に例外的に認めても、
練習以外のために使用することが基本的にはあり得ない時間。
(じゃあ、今これを書いている時間は?!)
 
例えば、営業時間が正午から夜9時までだとして、
その後、帰って寝るまでの1時や2時までの時間は、
自己研鑽に充てるべき時間となる。
それを毎日。
 
この点で、プロスポーツ選手は
とても厳しい時間管理を強いられる。

余暇を楽しむ時間、人
生のパートナーを見つける時間など
毛の先ほども残されていない。
 
それを諦めてでも、
ダンスに打ち込みたいという人にとっては
何の事は無いと思うが、そんな人は果たしているのだろうか。
 
それはさておき、彼らと話す時、
そのような厳しい環境に身を置いていない立場の人とは、
どのような会話がなされるのか。

それは、日頃の営業に見える通り。
 
外部の(プロの世界を知らないという意味で)お客さんとは、
まず、天気の話、体調の話、上達しているという話、
あとは、
個々人の趣味(歌、映画鑑賞、生け花、お茶・・・)についての話題となる。
 
「自分はこういった厳しいプロの世界観に依拠しているけど、
あなたはお客さんだからそんなのは知らなくて良いんですよ。
そんな部分よりももっとポップで楽しい分野でお話しましょうよ。」
ということになる。
 
これは、この世界に限ったことではない。

消費者としてのお客さんは、
提供される対象の上澄みだけを求めているわけで、
裏方で営まれる雑事や苦労話を知りたいわけではない。

 
①とは逆に、
「特別な世界観に依拠した側の人間」として、
その外部の人とどう接するのかという話になっている。

 ③高校時代のサッカー部員としての自分
 
クラスとサッカー部。
明らかに目的意識も生活リズムも違う2つの集団に所属している
という感覚だったのを覚えている。
 
そこで、自分のとった行動は、
片方に頭も体も8割くらい浸してしまうということだった(後になってそう自覚した)。

そして、2割しか浸っていない方を、
「劣ったもの」、
そして、
そこに所属しなければならない自分を
「(世を忍ぶ)仮の姿」ととらえるようにした(極端なやつだ)。
 
「平家に非ずは人にあらず」というフレーズが、
何度も頭をよぎったのを覚えている。
 
そこで、クラスメイトとの会話はぎこちないものになり、
クラスでの日常の細事もだんだん億劫になっていった。

しかし、周りのサッカー部員達は、
どうもクラスメイトとうまくやっているようだ。

なぜ?
これはどういうことだ?

自分に、
2つの異なる価値観の集団に
適応する能力が欠けていたと結論付けるのは簡単だ。
 
ただ、もう少し進めたい。
 
結局彼らは、
サッカー部としての自分とクラスの一員である自分の
2つの「自分」をうまく使い分けて、5割と5割のように、
自分につながるチャンネルとして2つを対等に位置付けていたんだと思う。

自分の信じた世界観に依拠する部分とそうでない部分が、
彼らの中で絶妙なバランスを保っていたんだと思う。
 
クラスメイトともうまく付き合っている彼らは、
不器用に意固地に片方にのみ居場所を求めようとする自分には、
とても眩しく見え、同時に疎ましくも思えた。
 
「なぜ、1つの世界に懸けないのか?
なぜ、自分たちがどれだけ走り込んで、
どれだけ汗を流したのかを知らない連中と、
へらへらと付き合えるのか?」
 
そんな、硬直した「まじめさ」が
当時の自分を支配していたように思う。
 
そのような思いが、
自分が発するクラスメイトへの言葉の端々に込められており、
クラスメイトも感ずいていたんだと思う。
 
自戒を込めて、この例に触れてみた。

**************************************
 
以上3つの例を挙げてみましたが、
どの集団にもそれぞれの中でしか通用しない
価値観、世界観があります。

それだけに忠実に生きていたら、
同質の集団でしか交流が無くなる。

それだと進化がありません。
進化のためには、多様性への適応が欠かせないし、
時には「エラー」と呼ばれる存在との接触も必要になります。
さらには、自分自身が「エラー」になる必要もあります。
 
だからこそ、
自分が認めていない世界観を持つ人との会話には、
自分の世界観を理論面で補強する種も含まれているかもしれないし、
自分の依拠する物語を、
今いる次元から、もう一段高い次元に引き上げてくれる
きっかけも含まれているかもしれません。
 
ま、「〇〇会社」とか「△△主義」とか「□□教」とかいった、
特別な名前が付いていなくても、
人はそれぞれに絶対に違うんだから、
自分の半分は何でも容れられるように
"空"にしておいた方が良いということ。

 今日はこの辺でzzz

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://ainoue.net/mt/mt-tb.cgi/12

コメントする

ウェブページ

アーカイブ

アイテム

  • P1040776.JPG
  • P1040630.JPG
  • P1040774.JPG
  • books.jpeg
  • P1040062.JPG
  • P1040639.JPG
  • 51IDakozVnL._SS400_.jpg
  • 517rp-clXkL._SS500_.jpg
  • 51kMcQCOAPL._SS500_.jpg
  • P1040038.JPG

2011年4月

          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30