#25 星新一の宇宙通信-会話の成立2

雨が上がって、風が涼しい。
 
 
以前、

人はなぜ、各個人が依拠する世界観が異なるのに会話が成り立つのか

という問いを立てたことがあります。

そして、それはたぶん、
自分が信じて依拠していたい部分と、
そうでない部分を使い分けることができるからだ、
というところに落ち着いたような気がします。


今回はその続き。


**************************************


星新一さんの作品に「宇宙通信」があります
(『ようこそ地球さん』新潮文庫)。


友好の証として
ロケットに地球文明を記した紙を積んで
宇宙に送ったところ、

松の木から進化した植物の
知能のある生命体がそれを受け取り、
地球は我々の仲間を粉々につぶして
活用している残虐な存在の住む星だと解釈。
 
その"お礼"に、
大量の放射性物質が地球に送られるという話です。


紙をただの「情報伝達物質の媒体」ととらえる地球人と、
「すりつぶされた仲間の死体」ととらえる宇宙人。

同じものに対する解釈、
呼び名が異なるために起こる悲劇を、
寓話の形を借りて表現した作品です。
 

そう、同じものを見ても、
全く違う感想を持つ。

さらにその感想が、
全く違う行動に結びつく。
 
そんなことが
この作品では語られていました。

 
しかし、よく考えると、
世の中にはそんなことがたくさんあるようです。
 
というより、

「会話が成り立つ」
ということを、

もっと意識的に見る必要がある気がします。
 

野矢茂樹さんの言葉によれば、

その"すれ違い"を、
自分とは異なる概念枠に依拠している、
と表現することも出来ます
(『本』「翻訳可能でも概念枠は異なる」稿09.02)。
 

個々人の持つ「概念枠」
(青色のものを緑色と表現するとか)が
重なっている部分が多い人同士は、
「話が合う」関係になり、

逆に重ならない部分が多い人同士では
「話が合わない」関係になる。

何を美しいと感じるかを自分と異にする人とは
なかなか付き合い辛いというのは、
きっとこのことを指すのでしょう。

一方、

鈴木健さんは、

「互いのコンテクストがずれているにもかかわらず、
あたかも理解しあえたような感覚を感じるというのが、
そもそもコミュニケーションの本質」

と表現しています
『思想地図』vol.2 NHKブックス別巻)。


相手のためを思って言った言葉が、
相手を傷つける刃になった。
 
逆に、
自分を励ますために言ってくれたであろう、
相手の言葉が、自分を苦しめる一因となった。
 
こんなことは、しょっちゅうありますよね。
 
自分が言った事が、
思惑通りに相手に伝わるということは
とても難しいことだと思います。
 
賭けのようなもの。
 
逆に、
相手の思惑をその言葉通りに
受け取ることもとても難しいと思います。


その難しさを乗り越えるために、

「これを伝えたいけど、うまく伝わったかなー。」とか、
「相手はこれを自分に伝えたいんだろうなー。たぶん。」

といったことを自覚しておくことが
とても大切になってくると思います。
  

そう言えば、
お客さんとの会話を思い出しました。
 

いつも、色とりどりの素敵なワンピースに身をまとい、
クリクリした大きな瞳で一点を見つめ、
みんなが笑う所でもみんなより少し遅れて吹き出し、笑う人。

自分のリズムがしっかりあって、
そのリズムの中で生きている人。

腰まで伸びた髪を1つにまとめている。
その風貌からは色鮮やかなロシアのマトリョーシカを思わせる。

そんな方です。


―素敵なお洋服ですね。

「そう、ありがとう、自分で作ったんですよ。
でもとても古いものなの。
ダンスをする時しか着れないものだから、
いつも、押入れの奥から引っ張り出してくるの。
今の札幌駅の近くに洋裁学校があってね、
そこに通ってたの。

兄の家族と一緒に暮らしていて、
そこから自転車で通っていたの。

兄が市役所に勤めていて、
いつも途中まで一緒に通っていてね。

別れ際に、兄が後ろから何か叫んでいたの。
何かなと思って戻っていったら、

"おい!お前、靴脱げてるぞ!"って。

どこで脱げたのか全然分からなくて。
片方の靴が脱げたまま自転車をこいでいたの。
2人で笑いあってね。・・・」


岸田今日子さんの朗読のような、
品のある落ち着いたシャンソンのような話し方。

会話っていうより、一方的な関係。
完全に聞き役になっています。


うなづきながら、
片方の靴が脱げた状態で自転車をこぐ自分を想像してみました。
(でも、脱げたら分かるよな・・・。たぶん。)


自分が投げかけた
着ていた服に関する言葉から、
その人は、服にまつわるエピソードを掘り起こし、
語ってくれました。
 

それによって何かを伝えたいとかじゃなくて、
服への意識がスイッチになって、
それに関する記憶を
するすると思い出したんでしょう。
 
 今日はこの辺でzzz

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