#41 サクセスストーリーの終わり-物語を作る男3

プレイステーションのソフトに、
「パワプロ」シリーズがあります。

正式名は、

実況!パワフルプロ野球

だったと思います。
 
昔、それにはまっていた時があります。

 
通常の対戦モード以外に、
サクセスモードというものがありました。


自分が高校を卒業したばかりの
新人プロ野球選手となって、

ファーム(2軍)からスタートして、
3年のうちに成績を上げて、
大きな年俸を稼ぐ
一流選手になることを目指すゲームだったと記憶しています。


投手なら、
球種の体得、球速のアップ、

野手なら、
バッティング技術、走力、守備力のアップを
日々の鍛錬メニューで目指す。

そして、

パラメータで示された疲労度を気にしながら、
練習を積み重ねる。

限界を越えてケガをしてしまうと、
練習も出来なくなるし、
試合にも出られなくなる。

ということは、
"一流の選手"からは遠のいていく。

そして、最悪の場合、
戦力外通告を受けて、
ベートーベンの"運命"のようなBGMとともに、

     「選手生命の終わり・・・」

という表示が悲しげに現れて、
ゲームオーバーになってしまう。
 
そんなゲームです。


ぼくは、そんなゲームに
はまっていた時期がありました。
 
何回でもやり直せるから、
失敗した時点で、
すぐにリセットしていた気がします。
 

でも。

今思うと、これはゲームに限った話じゃないな
と思います。
 

実は、この世界にも、
こういったサクセスストーリーがいくつも用意されていて、
自分達の思考を支配しているんだと思います。

それも、商業ベースとつながる形で。

 
「商業ベースで」と言ったのは、


     「うちに入学すれば、どこそことコネクションもあるし、
     すぐに最前線で活躍できますよ!」


とかを謳う芸能プロダクションや、


     「うちで免許をとれば、1年後には開業可能!」


とかを、売り文句にするネイルサロンなんかで、
こういったいった夢が売り物にされているということです。
 

そういう所は、

歌やネイルアートの技術を売っているんじゃなくて、

芸能界デヴューや独立開業といった

"物語"を売っているのだと思います。
 

社交ダンスの教室もそう。
 
お客さんに売るのは、
ダンスの技術ではありません。

それはただの手段、
カモフラージュ。

真なる商品は、

「自分」という人間。
「自分」という物語。


それを社交ダンスという、
きれいな包装紙で包んで売っているだけ。

そう思っています。


この世界には、
たくさんのサクセスのストーリーが存在する。
 
蔓延している、
と言っても良いほどに。
 
 
その最たるものが、昔で言う、


     「良い学校に入って良い大学を出て、
     名の通った会社に入って、適齢期で結婚して、
     子どもを2人くらい作って、課長・部長と昇進して・・・」


という物語。

かつての日本人みんなが目指した夢、物語。


本田由紀さんは、
これを

     「戦後日本型循環モデル」

と呼んで、

これがもう破綻したということを書いています(『思想地図vol.2』)。
  

今は、

多くの人が共に見ることが出来る物語は
無くなってしまったような時代かもしれません。


でも、

個々の世界には、
その中で広まっている物語、
目指される理想の出世コースみたいなものが
少なからずあると思います。


例えば、お笑い芸人

結構前からお笑いのTVプログラムが増えたし、
メディアに出る芸人も増えたと思います。

彼らの世界で共有されている物語は、


     「M1で優勝して(優勝しなくても注目されて)名前を売って、
     いろんなメディア(TVが一番良い)の仕事に呼んでもらって、
     自分達の冠番組を持って、
     ピンでバラエティーの司会をするようになって・・・」
 

だいたいこんな感じでしょうか。

 
例えば、大学院生

特に博士後期課程。
オーバードクター問題と言って、
博士号を取得したにも関わらず、
定職に就けない人が多いという現状があるみたいだけど、
そこで共有されている物語は、


     「初年度から研究テーマを明確に持ち、
     具体的な計画を立てて学会で何回も報告し、
     名のある学会誌に論文を何本も投稿し、
     指導教官との連携を密にして、何かのたびに、
     自分を多方面に売り込んでもらえるような営業活動をして、
     博士論文を書き上げる頃に、
     どこかの大学や研究機関に内定をもらう・・・」。
 

こんな感じでしょう。

 
例えば、社交ダンスの選手

ほとんどが20代30代の選手。
ここで支配的な物語は、


     「月曜から土曜までの日中は、
     教室で生徒さんにたくさんレッスンをして収入を得て、
     営業時間外に自分達の踊りを研鑚して
     競技会で良い成績を出して、
     パートナーと親密な関係になって結婚して夫婦になって、

     生徒さんからも2人まとめて応援してもらえるような状況にして、
     引退するまでの長期的なプラン

     (いつ、誰にどれだけレッスンを受けに行くのか?
     いつ、どのビッグコンペに挑戦するのか?等)

     を立てて、
     それに向けた精進を2人で積んで、
     引退する前に独立して
     自分達2人のスタジオをオープンして経営者になって・・・」
 

こんな感じでしょう。


例えば、野球選手


     「高校卒業して、どこかの球団にドラフト1位で採ってもらって、
     1年目から1軍で出場して活躍して国内で名前を売って、
     5年後にはメジャーに挑戦して、
     そこでも1軍の座を獲得して活躍して、
     また何年後かには日本に帰ってきて引退して、
     どこかの球団のコーチや監督になって・・・」。
 

こんなところでしょうか。


いろいろあります。

その世界で目指される「理想像」というか、
共有される「サクセスモデル」というか。

 
自分の属する世界に広まる成功のストーリーを
自分に当てはめて考えてみて、


      「自分なら歩めそうか?」
      「自分が歩むなら、この人と違って、
      何をどう変えたほうが良いのか、
      何を変えないでそのまま踏襲すれば良いのか?」


そんなことを考えることが正しそうです。


でも。


こういったサクセスストーリーは、
びっくりするぐらい画一的で
多くの人に目指されているような気がします。

人の数だけストーリーがあるということが、
嘘のように思えてしまいます。
 

     なぜ、他の人と同じ道を目指したがるんだろう。
     なぜ、ストーリーが1つしか無いように考えるんだろう。
     なぜ、選択肢がそれしかないと考えるんだろう。

 
こんなことを思ってしまいます。


本心かどうかは分からないけど、
島田紳助さんや明石家さんまさんにすり寄る芸人達を見るにつけ、
「芸人の人達って、そんなにみんな司会やりたいのか~?」
と思ってしまいます。


これって、


     サクセスストーリーが自分達の思考を支配している


と言えるんじゃないんでしょうか。


サクセスモデルとかと言われる物語は、
誰かが最初に語り始めたはず。 

 
島田紳助さんだって、
本業の漫才に見切りをつけて、

自分は今後何でやって行こうか

と考えて、司会にシフトしていったんだと思います。

その当時は芸人から司会に転身するという

"物語"のチェンジは、

きっと主流ではなかったはずです。


野茂英雄さんが、メジャーに挑戦した時も、
周りには誰もそんなことをする人はいなかったのに
(いたかもしれないけど今ほどたくさんいない)、

日本で実力を認められた人が
メジャーに行く意思を持つのは、
今ではごく普通の風景になっています。

当時の異端が、
今のスタンダードになっている。

 
みんながみんな、
「巨人の星」のような
ストイックな取り組み方が奨励されていた時代は
終わったと思います。

仕事にしろ、スポーツにしろ、家庭のことにしろ、

人生という自分のための物語の中に
それらをどう位置付けるかで、
取り組み方にバリエーションが出てきて当然だし、
そうあってほしいと思います。


誰かが始めた物語を支持して
真似をする人が多くなって、
そのストーリーがどんどん陳腐化していく。

採用する側にとって魅力が無くなっていく。

 
道の無い所に、
自分にしか出来ない方法で道を作って、
そこを進んでいくことが目的だったはずなのに、
無意識にみんなが目指しているから自分も・・・

という論理で、
自分の歩む物語を決めてしまう。

 
そういう人生の歩み方が、
スタンダードになっているような気がします。


誰もが、

自分にしか歩めない道を歩もうとしているにも関わらず、
そんな挑戦的な野心的な志向を持っているにも関わらず、
いつの間にか、
ただ"安定"を求める心性と親和的になってしまう。

 
サクセスストーリーという心躍るような物語も、

多くの人が同じものを追うようになることで、
魅力が無くなっていく
ということなんでしょう。


魅力が無くなるに留まらず、

逆に自分の思考を縛ってしまう
圧力に変わってしまうんでしょう。

やはり、


     自分の物語は自分で作るしかない


ということですね。


今、ぼくは、

サクセスストーリーと呼ばれる物語を素材に、
生き方を考えているんだと思います。

 
天上から人間社会を睥睨する神の視点ではなくて、
この社会に参加して、
自分自身で社会生活をしながら
こういうことを考えることに意味があるんだと思っています。
少し。

 
いとこからの提案で、

独自のドメインとレンタルサーバーの取得を

画策中です。
 
近日中に、
別のページに引越しをすると思います♪

 今回はこの辺でzzz

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://ainoue.net/mt/mt-tb.cgi/41

コメントする

ウェブページ

アーカイブ

アイテム

  • P1040776.JPG
  • P1040630.JPG
  • P1040774.JPG
  • books.jpeg
  • P1040062.JPG
  • P1040639.JPG
  • 51IDakozVnL._SS400_.jpg
  • 517rp-clXkL._SS500_.jpg
  • 51kMcQCOAPL._SS500_.jpg
  • P1040038.JPG

2011年4月

          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30