#79 社交ダンスと"マクドナルド"1

 

  休日の午後。

 細々した用事を済ませるために、札幌の街に出た。

 

 雲ひとつない夏の札幌の空には、輪郭のぼやけたクリーム色の太陽が浮かんでいる。

 空の青を背景に、暖かな陽射しが身体を温めてくれる。

 

 普段は車の往来が激しい大きな道路に、今日は人があふれている。


 Tシャツの袖をまくり、ケータイをいじりながら歩くお兄ちゃん。

 薄紅色の頬かむりをして、路上で野菜を売る老齢の女性。

 路上に出されたイスに腰掛け、カップに入ったコーヒーを飲む中年のカップル。

 道路端の縁石に座り、バンドの演奏に聞き入る男性。

 楽しげに互いの顔を見合いながら歩く家族連れ。


 そんな光景がそこここにある。


 "さっぽろプロムナード"。

 この時期の日曜日は、13時から17時の間、中心部の道路が歩行者天国になっているようだ。

 

 たまっていた用事を11つ片付け、一段落したところで、マクドナルドに入った。


 2年ぶりくらいに入店。

 眼前に踊る赤唐辛子の新作を注文。

 お水を2つつけてもらい、2階席へ移動した。


 4人がけのテーブル席と同じくらい、1人用の席が用意されている。

 蜂の巣。カプセルホテル。そんなことを連想する。

 マンガ喫茶の1人席みたい。

 急かされるような雰囲気の中、そのうちの1つを選ぶ。


 もそもそと"赤唐辛子"に手をつける。

 う~ん、おいしい。

 スパイスの効いたチキンがマヨネーズと絡んで、幸せが口いっぱいに広がる。

 思ったほど辛くなかったけど、濃厚な味付けが嬉しい。



 栄養価が低いわりにカロリーだけが高いとか、使われている食材が低質なものらしいという悪い評価もあったけど、おいしいからしょうがない。

 毎日食べようとは思わないけど、一切否定するのも嫌だ。


 毎日食べて病気になって「なんて物を食わせるんだ!」と言って、マクドナルドの商品の害悪性を糾弾する映画が以前あったけど、それに対して「この人は何やってるんだ」と思った記憶がある。毎日同じ物ばっかり食べてたら体調崩すのは当たり前だろうと。

 

 ファーストフードやインスタント食品は、人生におけるスパイスのようなもの。

 スパイスだけを食べてたら、調子悪くなるのは当たり前だ。


 ファーストフードをめぐっては、だいたい2つの立場がある。


 ①絶対だめ!

 ②絶対良い!とまでは言わないけど、一切排除する事はしたくない。


 この2つだと思う。

 ①の逆の「絶対良い!」という立場はあんまり無いような気がする。

 おいしいと思いながらも、心のどこかで"距離を置いておかなければ"といった自制心が働いている場合が多いと思うので。 



 自分は以前①の立場にいた。

 『ファストフードが世界を食いつくす』なんかに感化されて、ファーストフードの匂いのするものを目の敵にしていた時がある。

 ファーストフードの有する、"身体への害悪性"、"地球環境への害悪性"、"労働の非人間化"といった負の側面を過大にフォーカスして。

 「あんなものを食べていると、味蕾(みらい:舌の上にある味覚神経)が侵されて、何がおいしいかを判断できなくなる。」とか、「安価な労働力を生み出すことを欲する大資本に荷担する行為だ。」とか。

 そして、やれスローフードだ、やれロハスだと言って、逆の極に位置する営みに憧憬の念を抱いていた。

 "あんなもの"を食べて、「おいしいおいしい」という人を、心の奥底で"かわいそう"だと思い、"早く目覚めさせてあげなければ"的な思いを抱いていた気がする。

 今振り返ると、なんて狭量な思考なんだと思って恥ずかしくなる。

 自分にはファーストフードの持つ"負の側面"、"闇の部分"が見えていて、それを知らないで礼賛する人より自分は一段高みにいて・・・


 真実を知る自分とそれに気付かない他の人。

 自分の中にはそういう構図が出来上がっていた。 


 そんな思考。とても気持ち悪い。


 でも。


 この構図には見覚えがある。

 そう、宗教について。

  

 宗教に対して原理的な態度をとる時。

 "正しい"世界像を知る自分と、未だそれを知らない未入信の人。

 宗教について同じような構図が成り立っている。

 

 他には、社交ダンス。

 社交ダンスにおける「真実を知る自分と知らない他の人」という構図。

 次回、その続きを書こうと思います。

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