#110 閑話8-近くを見たり遠くを見たり

≪寒空に浮かぶ欠けた月。背の高い何かの木越しに小さく光っています。≫

札幌は、昼は暖かく朝晩は寒くなりました。
着るものに注意しないと風邪をひいてしまいそうです。

自転車に乗っている時に肌に触れる空気が、日に日に冷たくなっていくのを感じます。
札幌の短い秋がもう終わりにさしかかっているような、ちょっと寂しい気持ちになります。


自分の好きなTV番組に『世界ふれあい街歩き』(NHK)があります。
金曜日の10時くらいから。

たまに早く帰った時、ビールを飲みながら、ぼーっと観るのが好きです。
本当にぼーっと観ます。
呆けたみたいにぼーっと観ます。

カメラを切り換えずに映しっぱなし。
独特のカメラワークが、まるで自分がその街を歩いているかのような気分にさせてくれます。
道行く人にあいさつをして、その街にまつわるエピソードを聞いたり。
ほんわかして穏やかで、旅っていいなーという気分にさせてくれる番組です。

こういう番組を好きな自分に対して「若くないな~。おじいちゃんみたい。」と思う部分もありますが、

好きなんだから仕方がないです。
 

これからも、観れる時は、おじいちゃんみたいに、

堂々とビール片手にぼーっと観たいと思います(おじいちゃんに失礼?)。
 
昨日はドイツのハンブルグ。

歴史のある街並みを、いつものようにセンスの良い音楽と、

抑えの利いたナレーションが実物以上に魅力的に映していました

(行ったことがないので実物は知りませんが・・・)。

日本の都市部で見られるような華美な看板や広告が一切なく、

石畳の街道の上には、渋い色の建物と色鮮やかな木々が、

何とも言えない調和を生んでいたように見えました。

こういう風景を"自然で落ち着く"ととらえるか、"寂しい"ととらえるかは人それぞれなんでしょう。


オープンカフェでくつろぐ黒服の煙突掃除屋さん。
ヨーロッパで一番距離が長いと言われる屋外市場で、肉や魚や卵を売る人。
老舗のコーヒー店でコーヒーの生豆をいる店主。
港にある「船のあいさつ所」という所で、外国からの船を歓迎する体格の良い所長。
テラスで談笑するカップル。
自転車のカゴに「安い部屋探してます!」と広告をつけている若い母親。
運河をカヌーで往来する人々。
 
脚色を差し引いても、憧憬の念を禁じえない世界が、そこには提示されています。
 
こうやって、自分の身の回りにはない世界を疑似体験することで、

"きゅーっ"と縮みそうな思考をほぐして、ダイナミックな視点を取り戻す事が出来るような気がします。

パソコンやケータイをはじめ、小さな画面、近くの景色を観ることに

多くの時間を費やすようになった今の生活には、

こういった、遠くの景色を観る経験が必要なんだと思います。

近くを見たり遠くを見たり。


以前読んだ『乙女の教室』(美輪明宏)にあった、

左見右見(とみこうみ)」という言葉を思い出しました。
 
物事にはいろんな面がある。1つに留まらず左からも見て、右からも見て。

確かそんな意味合いだったような。
 
本当に、ただ、遠くを観る。
 
何も考えずに、ぼーっと観る。
バランス感覚を取り戻すような意味で。

そんなことが必要だと思います。
少なくとも自分には。

「なぜ、遠くを観るのか?」と問われれば、「必要だから。」と応えるしかないと思います。
「身体が求めているから。」と応えるしかないと思います。

お肉ばっかり食べていたら、野菜が欲しくなります。
お酒ばっかり飲んでいたら、お水が欲しくなります。
 
それと同じで。
必要だから。

ただ、ぼーっと観ていても思考が停止しているわけではない気がします。

ナレーションに対して「そうやそうや。おれもそう思うわ~。」といった共感や、

道行く人の服装を見て、「何ちゅうかっこしてんねん・・・」といった突っ込みとか、

何らかのリアクションを内に外に出してしまいます。


勝手に思考が動き出してしまうというか、突っ込みを入れてしまうというか。
もっと、本当に"流すように"見たいんだけど、それができないというか。

ぼーっとしていても、思考は止まらずに、むしろほぐれた状態なだけに、

常識から自由に、タブーもなく何らかの所感が瞬間的に生起してくるんだと思います。


番組では「おや?何をやっているのかな?」とナレーターに言わせて、

目の前の人に質問し始めたけど、自分はむしろ、「その後ろのおっちゃんが何か変な行動しているのが気になるわ~。そっちいじってほしかったわ~。」とか。

左から見たり右から見たり、表から見たり裏から見たり。
物事を立体的に見ようとする。

そういう態度を自覚的にとりたいと思います。

物事のいろんな面を観ようとしているからこそ、踏み惑う。判断に時間がかかる。
いろんな面を知っているからこそ、的確な言葉を探すのに時間がかかる。言いよどむ。
そんな人になりたいと思います。

自分の口から瞬間的に出てくる言葉を、注意深く疑う気持ちを忘れないようにしたいと思います。

****************************************

次回からは、社交ダンスの世界や他の世界で見つけた「2つの価値観」について何かを書きたいと思います。

二項対立的に2つを対置させて、

その2つはどういう距離感なのか。
なぜ、この2つの価値観が採用されているのか。

なぜ、この2つの価値観のうち、こっちを採用する人が多いのか。
自分はこの2つの間のどこに居場所を見つけるのか。
多くの人にとって座りの良い態度はどういうものか。

そんなことについて考えてみたいと思います。 

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://ainoue.net/mt/mt-tb.cgi/110

コメントする

ウェブページ

アーカイブ

アイテム

  • P1040776.JPG
  • P1040630.JPG
  • P1040774.JPG
  • books.jpeg
  • P1040062.JPG
  • P1040639.JPG
  • 51IDakozVnL._SS400_.jpg
  • 517rp-clXkL._SS500_.jpg
  • 51kMcQCOAPL._SS500_.jpg
  • P1040038.JPG

2011年4月

          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30