#162 人それぞれ?

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《北海道大学の大学祭。肉を焼くチリ人のおじさんです。おいしいお肉をありがとう!》

人類学とは、次のような学問だと思っています。

世の中で起こっていることに説明を与えるもの。
いや、これは、人類学というよりも、学問全般に言えることです。

何かよく分からないけど、
目の前で起きていることに何かしらの説明を加えること。
起こる原因であったり、メカニズムであったり、起こったことによる影響や効果であったり。

そういうものを目指すのが学問だと思います。

説明すること。

だから、
インフルエンザとかが流行した時、
経済が悪化している時、凶悪犯罪が発生した時、
大事故が起きた時、異常気象が観測された時、
気持ちに変化があった時、
スポーツで史上初の成績を収めた時、
今までうまくいかなかったステップを滞ることなく踊れた時、などなど、

各々の現象が起きた時に、
「なぜ?どのように?それでさらに何が起きたのか?起きるのか?」
といったことにまことしやかな説明を与えることが
学問の目的のようです。

だから、
何かが起きた時、
なんとか研究所の偉い人とか、大学の先生が

「これはしかじかの原因で起こったんですよ。
これからはこれこれの影響が出ると予想されますよ。
みなさん注意してくださいね。」

という語り口調が至る所で見られます。

そして、見る人も、
「ああ、なるほど、偉い人が言っているから、
この現象はこういうことなんだな。」
と理解した気になる。

現象は変わっても、
それが語られる原型は同じだと思います。
だいたいこんな感じ。

ぼくは、新しい現象に対する説明として、
人から聞いたことをあんまり信用することができません。

その説明というのは、
もちろん、
その人が自分の目で見、耳で聞いて感じたことを組み上げて言葉にしたものなので、
一見、何も知らない人の説明よりも、
信憑性が高いようにも感じられます。

が、

その説明はその現象の一面でしかない。
説明者の視点や性格、興味や気分といったものから自由ではない。
そう思います。

絶対的に客観的な、
誰が見ても同じようにしか見えないという現象はあり得ないと思っています。

世の中に起こることは、

まさに「ぬえ」のようで、見る角度によっては何者にも見える。

人によって全く違う像を描く。
そういうものだと思います。

これは今ではもう「常識」で、

人類学の分野では『文化を書く』。
メディアの分野では『ドキュメンタリーは嘘をつく』。
文学の分野では、金子みすず

を筆頭に。

絶対的に客観的なことはない。これが前提です。

では、何を信じれば良いかというと、それは分かりません。
人それぞれ。

でも。

人それぞれなんですが、
それだけだとやはりどうもうまくいかない。

「人それぞれですね。あなたはあなた。私は私。お互い好きにやりましょう。」

というのは、どこかおかしい。
お互いに関係が切れても良いような間柄であったら、
こういう態度もありなんでしょうが、
お互いに話を聞いて刺激を受けたり、
刺激を与えたりするためには、どこかでつながる必要もある。

この「つながりたい」思いというのは、
人間の根源的な欲求であると思っています。

自分に照らしてもそう思います。ブログやこの文章もそう。

「自分が勝手に思うことを公開しているだけ。別に見てもらわなくても良い。」という人がいますが、
それは本当かな、と思います。

見てもらってコメントをもらって
誰かと何かの形でつながりたいから、
こういうことをやっている。

だいたいこんな感じじゃないでしょうか。
文章や写真や動画の公開を駆動する原理というのは。

人類学の言葉では、
「人それぞれ」を「文化相対主義」と呼んでいます。
今ではもう当たり前になりすぎて、誰も目新しさを感じませんが。
「人それぞれ」を重んじるのも大切なんですが、
「私はあなたを殺します。」と言われて、
「そうですね〜人それぞれですよね〜どうぞどうぞ」
なんて言いながら、我が身を捧げる人はいないと思います。

何でもかんでも「人それぞれが大切だ!」
という理屈で通そうとすると、こうやって行き詰まることになる。
なので。
こうならないためには、どうしたら良いんでしょうか?
う〜ん、難しい・・・

ひとまずは、
個々人がバラバラでもあり、何かの部分で響き合う。
人間とは(少なくとも今の時代考えられている人間観は)
そんな関係の中で生きる存在だと考えることが大切なのかなと。

51t3sZhU-5L._SS500_.jpgのサムネール画像《partial truths.ものごとは、いくつもの部分的な真実でできている。》  
   

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