#165 生きている意味を考えたくない?:哲学・社交ダンス・2項対立

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《地に向かって手を伸ばす藤の花。控えめな香りが今の季節を彩ります。(札幌中島公園)》

ある晩、あるテレビ番組を見ました。

それは、難病により、各器官が麻痺し、
筆談でしか思惟を伝達できない人についてのドキュメンタリーです。

音として外部に自分の意思を伝えられない分、
それを筆談で(正確には人の手を借りて)
意思を伝えようとしていました。

その人の言葉の中に、何度も
「自分の生きている意味」というものがありました。

ぼくはその時思いました。

障害のある人ほど(そう言われている人ほど)、
「生きている意味」「いのち」について考えているんじゃないか。
逆に、そうでない人(健常者と言われている人)はそうでもない。

このことを考えると、
まるで、人間は「自分が生きている意味を考えること」から
遠ざかろうとしているかのように思えます。

自分がこの番組の登場人物のように、
切迫した生存感覚を持つ状況にならないと、
考える必要がないかのような。

もちろん、
自分がそういう状況にならないと見えない景色もあるだろうけど、
今、考えたりする身体的精神的余裕があるにもかかわらず、
それについて何かを考えることを遠ざけようとする。

周囲にそういうことを考える、
自分と似たような人がいたら、
とたんに「暗いやつ」とか「考え過ぎ」とかいった評価を下す。

そういう風潮はちょっとおかしいと思います。

誰しもが「生きている意味」について考えているんだと思います。
それなのに、そのことについて考えることをこの番組の登場人物や
「余命何ヶ月」と宣告された人の専有物にしてしまう。
譲り渡すことを何とも思わない。

そういうのはなんか嫌です。

「踊る意味」とか、「踊ることで生活の糧を稼ぐ意味」とでもなるでしょうか。

毎日当たり前のように踊ること、
競技会での好成績に向けて毎日練習することに慣れてしまうと、
「はて、自分は何のために踊っているんだろう?」
という問いを忘れそうになります。

でも、けがをしたり、病気にかかるとちょっとした変化が起こる。
日々当たり前のように行っていた行為の継続が脅かされると、
途端に人は、自分の人生の中でその行為が占めるウエイトを考えるようになる。

そんな気がします。

人類学の世界に


という巨人がいます。

ただの巨人ではなく、
人類学の世界では絶大な影響力を誇る巨人中の巨人です。

彼は、2項対立という思考の道具を使って、
人間についてのあらゆる物事を説明しようとしました。

その考え方によると、
「生きる」ということは、その反対の、
「死ぬ(生きていない?)」こととセットで語られるということです。

つまり、
「生きる」という状態を理解するためには
「死ぬ」ことがどういうことかを理解する必要がある。

ということなのです。

「こうなれば死んでしまう。生きていない。」
という状態をリアルに想像できた時に初めて、
「生きている」という状態を理解できるということなのです。

社交ダンスで言うと、

「踊っていない」状態を理解して初めて
「踊る」ということを理解できるということなのです。

「生きていること」ばかりを見ていても
「生きているという」状態は分からない。

「踊っている」状態ばかりを見ていても
「踊っている」状態は分からない。

自分が何をやっているのかを知りたければ、
その逆を考えてみましょう、ということなんでしょう。

似たようなことを以前書いたので、興味のある方はこちらをどうぞ

生きている意味を考えたければ、その逆の状態を考えてみる。

なので、

切迫した生存感覚を抱いている人ほど
「生きている意味」を考える傾向にある、
ということになるんでしょう。

ということは、

いつも「生きている意味」を考えたいと思うぼくも、
実は「いつ死ぬかもしれない」という
差し迫った生存感覚に突き動かされているのかもしれません。


levi-strauss.gif


             (1908−2008)
 
  構造主義の代表的論客。
  構造といういう言葉を使って、
  人間の行動や性質を説明しようとした。

  初期:文化は多様だが、
     その深層では統合されている。

中・後期:「構造」と「変換」という概念を使って、
     神話の構造を分析。
  
  

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