#185 「食わず語り」という行為

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《神戸港の震災メモリアルパーク。傾いた街灯が当時を物語ります。》

先生のお話から着想を得て。
(というよりもほとんど受け売りですが・・・)

人類学の大きな特徴に、フィールドワーク、というものがあります。
(今はもう、専売特許ではなくなっていますが・・・)

ざっくりと定義してみると、

フィールドワークとは、

「調べたい地域や集団の中に身を置いて、その中で生活し、
その生活の中で気付いた点、浮かび上がる特徴などを記録し、
編集するという行為全般」

を指すようです。(厳密な定義に関してはひとまず置いといて)

参与観察、もしくは参加観察という言葉とも深く関わっていて、
マリノウスキー以降、
人類学と言えば、フィールドワーク、
というような図式が出来上がったようです。

ぼくであれば、
社交ダンス界という世界に身を置いている、
という時点で、
既にフィールドワークを始めているという言い方も可能でしょう。

去年から始まったこのページの試みも、
フィールドワークの途中経過のようなものだと思います。

先生の話のおもしろい所の一つは、
「人類学」即「フィールドワーク」
というふうに固定的に考えない点です。

人類学をするならフィールドワークをしなければならない。

という図式をいったん緩ませるというか。
相対化するというか。
そういう試みに心躍ります。

今の時代、世界には、
人間の行っていない所というのは
昔に比べてかなり少なくなっていると思います。

そんな時代にあって、
誰も行ったことがない未開の秘境を探すのだ!と息巻いてみても、
なかなか難しいでしょう。

世界にあるのは行き尽くされたフィールドばかり。
そうであれば、採るべき最適な戦略は、

「先人が何度も訪ね、足跡だらけになっているが、
まだ足跡がついていない場所を探すこと」

ではないでしょうか。

つまり、
「フィールドとしては何も目新しくないけど、
今まで誰も見たことのないアングルからそのフィールドを眺めてみる。」
ということでしょう。

であるならば、

必ずしもフィールドに足を運ばなければならない
ということにはならないと思います。

というのも、

行き尽くされて踏破され尽くしたと思われるフィールドほど、
その調査記録が膨大に蓄積されているからです。
自分が行く必要はない。
行かなくてもその地域や集団の様子を知ることが出来る。

であるなら、

そういった先人の残した研究成果をありがたく使わせていただこう。

こういう思考が生まれるのは必至です。
そして、自分はそこに描かれなかったことを指摘するとか、
それらの蓄積に共通して見られる特徴を浮かび上がらせるとか、
そういう研究の仕方もありだと。

「人類学だ!よし!フィールドワークだ!よし!あそこに行こう!」

という思考の流れを唯一のメインストリームにするのではなく、

「この分野を研究したいけど、
それにはフィールドワークがふさわしいのだろうか?
もし適当だとしても、先人がけっこう調べているから、
この辺に関してはもう自分が調べなくて良いのではないだろうか。

では、自分は何をするか。

この分野に関するこれだけ膨大な研究を比較して、
この分野がこれまでどのように扱われてきたのか、そして、
その扱われ方の背後には何かの影響が作用しているのではないか、
とかいった研究をしてみても良いんじゃないか。

では、ひとまずやるべきことは、
フィールドに行くことではなくて、
これまでの研究を片っ端から集めることだ。」

とか。

こういう思考の流れ、研究の流れもあっていいのではないかと。
そう思いました。

フィールドに行っていないけど、
そのフィールドについて何かを語ることが出来る。

これは、次のような表現にも通じると思います。

見ていないけど、それについて何かを語ることが出来る。
食べていないけど、それについて何かを語ることが出来る。
聞いていないけど・・・
触っていないけど・・・

「それ」と直接の接点がなくても、
「それ」について語ることは原理的には可能だと思います。

あとは、
その行為を「あり」だと思えるかどうか。
おもしろいと思えるかどうか。
そういう問題のようです。

知らないくせに、見てないくせに、行ってないくせに。

と言って、
「それ」との未接触だけを理由に「それ」について語ることを
排斥するのは損なことのように思います。

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