#20 安部公房の箱男-感覚の記録

今日は久しぶりの休日。

貴重な休日。

天気はいまいちだけど、
積極的に休みの日を
楽しみたいと思います。

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自分を貫く法則は何か。

何を指針にして、
自分は思考し行動するのか。

そんなことに興味があります。
知りたいと思います。
  

そのためには、
何をした方が良いんでしょうか。


その1つに、

「感覚を記録する」

というものがありそうです。


眠い・・・明るいなー、今日は蒸し暑いなー、
今何時?まだこんな時間かー、
なんか変な夢見たなー、
あれ、これとこれって何か共通点ありそう?・・・


浮かんでは消えていく、
いろいろな感覚に対する所感。

それらを逐一記録してみると
おもしろいかもしれないです。

ということで、

日ごろの通勤の風景から。

明日も繰り返されるであろう
道行きの風景から。

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職場の教室へは、
いつも30分くらいかけて、
自転車で通っている。

職場の近くに引っ越した方が良いと、
同業の先生方によく言われたし、
自分もそう思っていた。

でも、今はそう思わない。

むしろ、この時間がとても愛しく思える。
自分の人生の中で大切にしたい時間だと思っている。
 
蝦夷梅雨というのか、
最近めっきり蒸し暑い。
今日も空の様子が思わしくない。

灰色の空には、
その先にあるはずの青が、
未だ顔を出さない。

屋内から見える木々の揺れを通して、
風の強さや外の寒暖を推し測り、
今日の服装を決める。

今日の風はボウボウとうなっている。
のしかかる風の重さを想像し、
少しだけ憂鬱な気分になった。

雨降りに備え、
黒ずんだビニール傘を自転車に装着。

妹からもらったPORTERの黒いかばんを
前のカゴに突っ込み、自転車にまたがる。

タイヤの空気圧が減っているのか、
自分の体が重いのか、
今日はやけに進みが重い。

それに加えてこの風だ。
ひとこぎひとこぎ、頑張って前に進む覚悟をする。
 
昨日の練習疲れがまだ残っているのかもしれない。
背中に、バキバキとした、きしみのような痛みを覚える。

出発したらすぐに、
左手に教会を望み、
勢いを増した向かい風に立ち向かう。

公園が右手に見えてくる。

公園を取り囲むように植えられた桜の木々。
中でも一番端にある桜。

通るたび、
いつも自分の心を吸い寄せる。

ひと月前には、
もりもりと八重桜を結んでいたこの木も、
今は緑に覆われている。

つい先日の桜吹雪を思い出し、
夢の世界へ迷い込んだ過ぎし日を思い、
1人感慨にふける。

ただの桜の木だけど、
今自分と通じ合ったこの木は、
自分にとって、
世界で唯一の存在になっている。

(通じ合ったと思っているのは、
自分の一方的な思い込みだろうけど)。  

ぼんやりと、
今日のレッスン、来る予定のお客さんの顔を思い浮かべる。

「あの人、前回はこれをここまで、やったよなー。
それで、あの時覚え辛そうだったなー。
今日はここからやってみるかー。」

なんかを思ってみる。

曲がり角で鉢合わせをし、
思わずぶつかりそうになった
中年の女性と目礼を交わし、
交差点をわたる。

ブロックの角にある小さなパン屋さん。
いつも、行列だ。

大人が5人入ったら、
もう身動きが取りづらい。
それぐらい小さなお店。

一般的な一軒家の1階を
店舗に改築したみたい。

狭い店内には、さらに奥があり、
そこでは、白衣白帽に身を包んだ
何人かの職人さんが、
狭い中をひしめいてパン作りに勤しんでいる。
 
小学校の時に、
社会科見学でパン工場に行ったけど、
ここまで狭くなかったなー。

狭いスペースにギュウギュウにいろんなものを詰め込んで、
そこに1つの世界を作る。

日本的な感じがして、
なぜだか嬉しくなる。


荷物を小脇に抱え、
小さくなりながらおいしそうなパンを選び、
周囲を気遣いながら
お会計をしてもらった時のことを思い出した。
 

札幌駅直結のJRタワーが右手に見えてくる。
家から職場までの、
ちょうど中間くらいの地点。


あ、雨が降って来た。
やっぱり・・・


背中を丸め、
小走りに道を急ぐ人。

目的地に近いのか、
落ちてくる小さな雨粒を意に介さず、
歩みを変えない人。

自分と同じように自転車に乗り、
傘をさすタイミングを見計らっている人。

いろんな人がいる。

 
ふと顔を上げると、顔がダンボールの人がいた。
 
はて面妖な。

雨よけのつもりだろうか、
2リットルのペットボトルが6本入るサイズの
細長い直方体のダンボール箱。

それをすっぽりと頭にかぶっている。

さして急ぐ様子もなく、
悠然と横断歩道を渡っている。
 
安部公房の『箱男』を思い出した。
 
彼の箱男と同じように、
持つために開けられたくり抜き部分をのぞき窓にして、
そこから世界を見ているのだろう。
 
今、自分の目の前を通り過ぎるダンボール男も
そんな箱男を意識しているのだろうか。

世の中にはいろんな人がいるものだ。


いくつかの魚屋が軒を連ねた場所に出た。


小路を左に折れた所にある
1軒の魚屋には、
30代半ばくらいの
眼鏡をかけたお兄ちゃんがいる。

毎日毎日、
ケータイをいじっている。

学生風の髪型に、
決して快活そうには見えない陰の差した顔立ち。

身長はそれほど大きくない。
自分より少し小さいか。

長靴を履き、前掛けもしているから、
そこで働いている人だとは思う。 
 

話したことのないこの人に意識を向ける。
目線だけではなく、意識も向けている。

その人は、意識を向けられているとは絶対知らない。

ただ、丸めた背中の向こうで大事なケータイを触っているだけ。

誰かとつながっているのか、
それともゲームを楽しんでいるのか。

話したこともないこの人に、
いろんなストーリーを演じてもらう。

自分の頭の中で。
 
もしかしたら、
魚屋は両親のやっている店で、
自分は夢破れて東京から引き上げてきたのかもしれない。

そして、引きこもるくらいなら、追い出すと言われ、
しぶしぶ家業の魚屋を手伝っているだけかもしれない。 

勝手に人の来し方を想像する。

この時だけ、この一瞬だけ、
この人と自分の人生が交錯する。

幸い、雨は小降りのまま踏みとどまってくれた。
結局、傘はささずに職場へ到着。

今日も1日頑張ろう。
そんな感じで1日が始まる。

今日はこの辺でzzz
 

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